2014年4月11日金曜日

第三章 第二の精霊:その二

第三章 第二の精霊:その二

 そこはスクルージの部屋だった。そのことについては疑う余地
がなかった。ところが、そこは驚くべき変化をしていた。
 部屋には、壁にも天井にも生々した緑の葉が垂れ下がって、完
璧な森のように見えた。そして、いたる所に明るく輝く果物が、
まるで露のようにきらめいていた。
 柊(ヒイラギ)やヤドリギやツタのさわやかな葉が光を照り返
して、さながら無数の小さな鏡がちりばめられているように見え
た。
 スクルージが住んでいる時でも、マーレーが住んでいた時でも、
また、なん十年という過ぎ去った冬の間にも、この石と化したよ
うに忘れ去られた暖炉が、今まで経験したことのないような、そ
れはそれは盛んな火炎を煙突の中へゴウゴウと音を立てて燃え上
がらせていた。
 七面鳥、ガチョウ、獲物、家禽、野猪肉、肉の大きな関節、仔
豚、ソーセージの長い環、ミンチパイ、プラムプッディング、カ
キの樽、赤く焼けている栗、桜色の頬のようなリンゴ、ジューシー
なオレンジ、甘くて美味しそうな梨、巨大な十二段のケーキ、泡
立っているパンチボールなどがそれぞれの美味しそうな湯気を部
屋中にあふれさせ、一種の玉座を形造るように、床の上に積み上
げられていた。そして、その頂にあるソファの上に、見るも愉快
な、陽気な巨人がゆったりとかまえて座っていた。
 巨人は、その形からして豊穣の角に似ている一本の燃え立つトー
チを片手に持っていたが、スクルージがドアの後ろから覗くよう
にして入って来た時、その光を彼に振りかけようとして、高くそ
れを差し上げた。

「来なさい!」と、巨人は叫んだ。
「来なさい! そして、もっとよく私を観察すればいい、旦那!」

 スクルージは、まるで他人の家に来たように、おずおずと入っ
て、この巨人の前に頭を下げた。その姿は今や以前のような強情
な彼ではなかった。だから、巨人の目は明らかに親切だったけれ
ど、巨人がそれに満足しているような好意はなかった。

「私は現在のクリスマスを盛り上げる精霊だ」と、精霊は言った。
「私をよく見るんだ」

 スクルージは、恐る恐る精霊の座る高台を見上げた。
 精霊は、白い毛皮で縁取った、濃い緑色の簡単なローブ、ある
いはマントのようなものを身にまとっていた。その衣装は体にふ
わりとかけてある感じがした。そして、それ以外はなにも身につ
けていない裸のようで、大きい胸板が見えていた。
 精霊は、それ以外の衣装など必要ないといった野生的な雰囲気
をかもしだしていた。
 衣装のすその深いひだの下から見えているその足も、やはり素
足だった。ただ、その頭には、いたるところにピカピカ光るつら
らの下がっている柊の花で作った冠があった。
 精霊のこげ茶色の巻き毛は長く、そしてゆるやかに垂れていた。
ちょうどそのにこやかな顔、キラキラしている目、開いた手、元
気のよい声、くつろいだ態度、楽しげな雰囲気のように無造作だっ
た。
 よく見ると、精霊の腰の周りには古風な刀の鞘をさしたベルト
を巻いていた。しかし、その鞘の中に剣はなかった。しかもその
古い鞘はサビてぼろぼろになっていた。

「旦那はこれまで私のような姿を見たことがないんだ!」と、精
霊は、驚いたように叫んだ。

「もちろん、ございません」と、スクルージはそれに応えた。

「私の一族の若い者達と一緒に歩いたことがなかったかい? 若
い者達といっても、(私はその中で一番若いんだから)この近年
に生まれた私の兄さん達のことを言っているんだが」と、精霊は
聞いた。

「そんなことがあったようには覚えてませんけど」と、スクルー
ジは応えた。
「どうも残念ながら一緒に歩いたことはなかったようでございま
す。ご兄弟が沢山いるのですか? 精霊様」

「千八百人以上はいるよ」と、精霊は応えた。

「恐ろしく沢山のご一族ですね。食べさせていくにも・・・」と、
スクルージは口の中でつぶやいた。

 おもむろに精霊は立ち上がった。

「精霊様!」と、スクルージは率直に言った。
「どこへでもお気の向いた所へ連れて行って下さいませ。昨夜は、
しかたなくついて行きましたが、その体験で、私の心にしみじみ
感じることのできる教訓を学びました。今夜も、何か私に教えて
下さるのなら、どうかそれによって有益な時間にして下さいませ」

「私のローブに触ってごらん!」と、精霊は言った。

 スクルージは言われたとおりにした。そして、しっかりと精霊
のローブを握った。