2014年4月12日土曜日

第五章 この出来事の終わり:その五

第五章 この出来事の終わり:その五

 次の朝、スクルージは早くから自分の事務所にいた。そう、彼
は早くからそこにいたのだ。
 もし、スクルージがそこに最初に一人だとしたら、もしそうだ
とすれば、ボブ・クラチェットのほうが遅く来ることになるので、
ボブに強く言える!
 スクルージは、そうなればしめたものだと、ボブが遅刻するこ
とにも望みをかけた。だから、彼は早めに出社したのだ。そう、
彼はそうしたのだ。

 時計は九つの時の音を告げた。
 ボブは来ない。
 十五分が過ぎた。
 ボブはまだ来ない。彼は完全に十八分三十秒の遅刻をした。
 スクルージは、事務所の出入り口のドアを広く開けて部屋に戻
り、いつもの自分のイスに座った。彼は、牢獄のような小部屋に
ボブが入って行くのを待ち望んだ。

 ボブは帽子を脱いだ。彼は事務所の出入り口の開いたドアの前
だ。次に彼は毛糸のマフラーも同じようにはずした。そして、彼
は、なにごともなかったかのように、すぐに彼の丸いイスへ直行
した。それと同時に、ペンを握ると仕事をしていたかのように装っ
た。その彼のペンは、絶えず精力的だった。もしかしたら、九時
に追いついてくれるのではないかというように、彼は挑戦してい
るようだった。

「おはよう!」と、スクルージはうなった。彼のいつもの声で、
できるだけいつもの口調で、彼は平静を装うことができた。
「ボブ君。君はどういう理由で、今頃、ここへ来たのかね?」

「大変申し訳ありません」と、ボブは言った。
「私は遅刻いたしました」

「君もそれを認めるのか?」と、スクルージは繰り返した。
「そう、私もそう思うよ。時間は貴重だ、有効に使わないとな。
ボブ君、ちょっとここへ、来たまえ」

「こんなことは年に一度だけでございます」と、ボブは、まさし
く牢獄にいるような気持ちで弁解しながら、小部屋のドアを出た
ところで立ち止まった。
「こんなことは繰り返さないようにいたします。昨日、私は少し
気を抜きすぎました」

「ところでだ。あのな、ボブ君」と、スクルージは言った。
「私はこの程度の仕事では、報酬を見直さなければと考えている
んだよ。それだから・・・」
 スクルージはイスから立ち上がり、ボブに近づいて話を続けた。
そして、ボブのチョッキに人差し指をひどく突き立てたので、ボ
ブはよろめいて再び牢獄に後退した。
「それだから、私は君の報酬を上げることにした!」

 ボブは震えた。そして、すぐそばの物差しを手に持った。また、
彼はとっさに思いついた。この物差しでスクルージを打ち倒して
動けなくする。そして、人々を呼び、法廷で苦境にあるチョッキ
を助ける。

「メリークリスマス! ボブ君」と、スクルージは言った。真剣
に、間違いなく。そして、ボブの肩をポンと叩いた。
「メリークリスマス! ボブ君。君は私の親友だ。その君に私は
長年の間、失望を与えていた。だから、私は君の報酬を正当なも
のにしたいんだ。そして、君の苦労しているご家族を助けるため
に努力を惜しまないよ。それから、今日の午後すぐに、私達の仕
事を見直そうじゃないか。もう、私は君に辛い仕事を押しつけた
りはしない。これからは社会を善くするために貢献しようじゃな
いか」

「は、はぁ」と、ボブはまだ何が起きたのか理解できないといっ
た様子で、力のない声を出した。
「でも、どうして? 何があったんですか?」

「君が驚くのも無理はないな。今までの私のしていたことは、あ
まりにもひどすぎた」と、スクルージは言って、自分の過去を振
り返った。
「私は恐れていたんだ。私がユダヤ人だということで、皆から偏
見を持たれるのではないかと、いつもおびえていた。それで、金
持ちになれば、大きな力を手に入れ、身を守れると思った。たし
かに、お金は私の身を守ってくれたよ。しかし、そのおかげで、
最も大切なものを遠ざけてしまった。恋人や暖かい暮らしの中で
育まれる家族。それらが、どんなに大切な存在だったか、バカな
私には気づかなかった。私こそ、皆に偏見を持っていたんだ。貧
困に苦しんでいる人達を軽蔑し、社会のお荷物で、堕落した役立
たずだと思い込んでいた。ところが、君のところのティム君は、
自分の病弱で体の不自由なことを隠そうともせず、皆に理解して
もらおうと努力している。あえて弱い自分をさらけだし、周りの
人達の暖かい心を呼び起こそうとしている。こんなに大切で、か
けがえのない存在を死んでもかまわないと思っていた私は、なん
ておろかで、堕落した人間だったのか。ティム君を救おう。彼を
少しでも健康にしたい。そうさせてもらえないだろうか? ボブ
君」

「あ、ありがとうございます!」と、ボブは祈るように言った。
「ありがとうございます、スクルージさん。私は貴方に心から感
謝いたします」

「それだよ、ボブ君。私達はこれから、一人でも多くの人から、
その感謝の言葉を集めるんだ。お金を集めるよりも、もっと大事
な、最高の仕事だ。それに気づかせてくれたのは、ボブ君、君な
んだよ。君にはすばらしい能力がある。だからこそ、いつまでも
私のそばにいて欲しいと思っているんだよ。私こそ、君に心から
感謝するよ。君に許してもらえるように努力するよ」と、スクルー
ジは言って、ボブの手を握った。
「私は、君の手をこんなに凍えさせていたんだね。さあ、ボブ君、
火をおこそう。そして、石炭バケツをもう一つ買おう。私のとは
別に、君の前のストーブのもね。ここへは、これから大勢の人達
が凍えた体でやって来る。その人達を暖められるように、部屋全
体を春のように暖かくしようじゃないか」

 スクルージは、約束したことよりもよくした。彼はすべて実行
をした。もともと、彼には才能があり、それをお金集めから、社
会に貢献する仕事に集中させたので、すばらしい結果をもたらし
た。彼は、いたるところに気を配り、ささいなことにも気づかっ
た。そして、病弱なティムにも愛情を注いだ。
 驚いたことに、ティムは死ななかったのだ。
 スクルージは、ティムのもう一人の父親になった。彼は、ティ
ムのよい遊び相手になった。