2014年4月12日土曜日

第五章 この出来事の終わり:その三

第五章 この出来事の終わり:その三

 スクルージがヒゲを剃ることはやさしい仕事ではなかった。そ
れは、彼が笑い続けていたので、カミソリを持つ手がとても揺れ
ていたからだ。そして、剃ることは注意をようするものだ。大げ
さに言えば、踊らない時でさえ、慎重にすることだ。しかし、も
し彼が誤って、彼の鼻がつけねから離れたとしても、彼は一つの
バンソウコウを傷の上にはっただけでも、かなり満足したはずだ。

 スクルージは、自分のすべての洋服の中で、彼の最も気に入っ
た洋服を着た。そして、彼はついに外の通りへ出た。
 人々はこの時、以前に見たことのある行動をしていた。
 スクルージは、この人々を現在のクリスマスの精霊と一緒に見
ていたのだ。そこで、懐かしそうに歩きだした。彼は手を後ろに
していた。彼は、行き交う人達をだれかれとなく見つめ、うれし
そうに微笑んだ。その時の彼は、楽しさがおさえられないように
見えた。それは陽気な老紳士の姿だった。だから、三、四人の機
嫌のいい人達が声をかけた。
「おはようございます。あなたにもメリークリスマスを」 
 このことをスクルージは、後にしばしば言った。
「あれは私が以前に聞いた、すべての楽しげな声の中で、最も楽
しげに私の耳に感じた」

 スクルージは、それほど遠くまで歩いていない所で、前方から
来る、かっぷくのよい紳士に気がついた。その紳士は、前日に彼
の事務所にやって来て、寄付を求めたので追い返したその人だっ
た。
「こちらはスクルージ・エンド・マーレー商会でございますね?」
と、その紳士の言葉がよみがえった。
 その言葉がスクルージの心をよぎり、心苦しさを与えた。もし、
彼がその紳士に声をかけた時、どんな態度で、この紳士は彼を見
るだろう。しかし、彼はいい考えがあると、歩道で正直に申し出
ようと紳士の前で立ち止まり、そして、彼は自ら罰を受け入れた。

「もし、貴方」と、スクルージは言って、彼は紳士に歩み寄り、
そして、愛想よく紳士と握手した。
「こんにちは。昨日、私は貴方にお会いしたのですが、もうお忘
れでしょうか? あっ、そうだ。メリークリスマス!」

 かっぷくのよい紳士は、スクルージに寄付を断られ、追い返さ
れたことを忘れてはいなかった。しかし、その時の彼とはまるで
別人のような態度だったので、思い違いをしているのかと不安に
なった。
「メリークリスマス。スクルージさん?」と、紳士は聞き返した。

「はい」と、スクルージは応えた。
「それが私の名前です。そして、私はそれが貴方には不愉快かも
しれないと不安でなりません。貴方に許してほしいのです。たし
かにあの時、貴方達がおっしゃったように、多くの人々が貧困に
苦しみ政府の対応に不満を感じて、死にたいと思っていることを
私は知っていました。私はそれに目をそむけていたのです。どう
か私にも貴方達に協力をさせてください」

 そこでスクルージは、紳士の耳にささやいた。

「おお!」と、紳士は叫んだ。彼は呼吸が奪われたようだった。
「スクルージさん、貴方、本気ですか?」

「もし貴方に喜んでいただけるのでしたら」と、スクルージは言っ
た。

「ちっともかまいません。それはとても多くさかのぼってのご寄
付となります。本当ですよ。またどうして、貴方はそんなに親切
にされる気になったのでしょうか? ええ、貴方」と、紳士は言っ
て、スクルージと握手をした。
「私はなんと言ったらよいか。そのように惜しみなくご寄付して
くださるとは」

「なにもおっしゃらないでください」と、スクルージは言った。
「しかし、それだけでは一時しのぎにしかなりません。それを使
い切った後には、もっと辛い生活が貧困に苦しんでいる人達を襲
うでしょう。ですから、根本的な対策が必要です。貧困に苦しん
でいる人達は、貧困の不満、それ自体が仕事だということに気づ
いていないのです」

「それは、どういうことでしょうか?」と、紳士は聞いた。

「私の商売は、人々の不満を買い取り、それを良くするアイデア
を売っていたのです。不満を改善する商品やサービスを考えれば、
それが仕事になり商売になるのです。彼らはいつも商売の種を持っ
ているのですよ」と、スクルージは応えた。

「なるほど」と、紳士は納得した。

「それと」と、スクルージは言って、話を続けた。
「財産を持っている者と持たざる者は、同じなのです。例えば、
目の不自由な人がいますね。この明るい場所で私達から見れば、
それは不自由です。しかし、真っ暗闇ではどうですか? 私達は
何も見えず不自由になりますが、目の不自由な人にとってはいつ
もと同じです。このことと、財産を持っている者と持たざる者は、
同じなのです」

「私には、よく分かりませんが」と、紳士は首をかしげた。

「ようするに、財産を持っている者の通貨を使おうとするから、
持たざる者は貧乏ということになるのです」と、スクルージは説
明した。
「ですから、持たざる者だけが使える通貨を造るのです。ただし、
この通貨は他の通貨に交換することは出来ず、個人で所有するこ
とも出来ません。使う人全員の所有物として、必要な時だけ借り
て利用するのです。これには、生産者や商売人にも参加してもら
い、収入を元に戻してもらいます。そのかわり、資材や商品の仕
入れ、社員への報酬の支払いをする時にも、この通貨を利用して
いただければ、今までの通貨を稼ぐといった苦しみがなくなり、
通貨は留まることがなく、循環することになります」

「これは、皆の財布を一つにするということですか?」と、紳士
は聞いた。

「そうともいえますね。しかし、政府はこの通貨を本当の通貨と
は認めないでしょう。だから、物のやり取りをしても税金を取ら
れることはありません。本当の通貨の移動はないのですからね」
と、スクルージは言った。
「もっと詳しいことをお話しさせていただきたいのですが。近い
うちに私の事務所に会いに来てください。貴方は私に会いに来て
いただけますか?」

「もちろん!」と、紳士は言った。そして、それは確実で、彼は
それを実行するつもりだった。

「ありがとうございます」と、スクルージは言った。
「私は、貴方にすごく感謝いたします。私は、とても感謝いたし
ます。ありがとうございます!」