2014年4月10日木曜日

第二章 第一の精霊:その一

第二章 第一の精霊:その一

 スクルージが目を覚ました時には、ベッドから外の方を見ても、
その部屋の不透明な壁と透明な窓ガラスとの見分けがほとんどつ
かないぐらいに暗かった。彼はフェレットのようにキョロキョロ
した目で闇の中にある物を見ようとした。その時、近郊の教会の
鐘が十五分を告げる時の音を四回鳴らした。そこで、彼は時の音
を聴こうと耳を澄ました。

 スクルージがすごく驚いたのは、重い鐘が六つから七つと続け
て鳴り、七つから八つと続けて鳴ると、正確に十二まで続けて鳴っ
て、そこでピタリと止んだことだ。

 夜中の十二時! 
 スクルージがベッドについた時には夜中の二時を過ぎていた。
 時計が狂ってるんだ。
 機械の中にツララが入り込んだのに違いない。
 夜中の十二時とは!

 スクルージは、このでたらめな時計に惑わされまいと、自分の
懐中時計の時報スプリングに手を触れた。その急速な小さな鼓動
は十二回鳴り、そして止まった。

「何だって」と、スクルージは言った。
「まる一日寝過ごして、次の日の夜中まで眠っていたなんて! 
そんなことはあるはずがない。だけど、何か太陽に異変でも起っ
て、これが昼の十二時だということもないだろう!」

 そうだとすれば大変なことなので、スクルージはベッドから飛
び起きて、探り探り窓のところまで行った。ところが、窓ガラス
に霜がつき、何も見えないので、やむを得ずガウンの袖で霜をは
らい落した。すると、ほんの少しだけ外を見ることが出来た。

 スクルージがやっと見分けることの出来たのは、まだ非常に霧
が深く、耐えられないほど寒い光景だけで、大騒ぎをしながらあ
ちらこちらへと走り回っている人々の物音などは少しもなかった
ということだった。
 もし夜が朝日を追い払って、この世界を占領したとすれば、騒
がしい物音が当然、起っていたはずだろう。それがなかったので
スクルージは少し安心した。なぜなら、数えるべき日というもの
がなくなったら「小切手を受け取って三日以内に、エベネーザー・
スクルージもしくはその指定人に支払うこと」等々は、無効とな
り、その収益は政府に奪われることになったろうと思われるから
だ。

 スクルージは、またベッドに入った。そして、この状況を考え
た。考えて考えて、いくら考えてもさっぱり訳が分らなかった。
 考えれば考えるほど、いよいよ混乱してしまった。
 忘れようとすればするほど、ますます考えざるを得なかった。
 マーレーの亡霊はいちいちスクルージを悩ませた。
 スクルージは、よくよく考えたあげく、それはまったくの夢だっ
たと思い込もうとするたびに、心は強いバネが放たれたように、
また元の位置に飛び返って「夢だったのか? それとも夢じゃな
かったのか?」と、始めからやり直すように同じ悩みがよみがえっ
た。

 鐘がさらに十五分の時の音を三回鳴らすまで、スクルージはな
すすべもなくベッドで横になっていた。そして、突然、鐘が夜中
の一時を鳴らした時には、マーレーの亡霊が「最初の精霊が来る
から覚悟するように」と、忠告していったことを思い出した。彼
はその時間が過ぎてしまうまで、目を開けたまま横になっていよ
うと決心した。なるほど、彼がもう眠らないということは、死ん
であの世に行くことはないだろうから、これは恐らく彼の力で出
来ることとしては一番賢い決心だったろう。

 それからの十五分は非常に長くて、スクルージは一度ならず、
思わず、うとうととして、時計の音を聞きもらしたに違いないと
思ったくらいだった。とうとうそれが彼の用心深くなっていた耳
に突然、鳴り響いてきた。

「ディン、ドン!」

「十五分過ぎ!」と、スクルージは数えながら言った。

「ディン、ドン!」

「三十分過ぎ!」と、スクルージは言った。

「ディン、ドン!」

「もうあと十五分」と、スクルージは言った。

「ディン、ドン!」

「いよいよだ!」と、スクルージは身構えて言った。
「しかし何事もない!」

 スクルージは、時の音が鳴らないうちにそう言った。だけど、
その鐘は今や深く鈍い、うつろで陰うつな、夜中の一時を告げた。
 たちまち部屋中に光が点滅して、ベッドのカーテンが引き開け
られた。

 スクルージのベッドの四方を覆っていたカーテンは、私はあえ
て詳細に言うが、片手でわきへ引き寄せられた。側面のカーテン
でも、後ろのカーテンでもない。スクルージの顔が向いていた方
のカーテンなのだ。

 スクルージのベッドのカーテンはわきへ引き寄せられた。そし
て、彼は、飛び起きてベッドに座った状態で、カーテンを引いた
その人間ならぬ訪問客と対面した。
 ちょうど私が今、皆さんに接近しているのと同じように密接し
た状態だ。そう、私は、精神的には皆さんのすぐそばに立ってい
るのである。