2014年4月11日金曜日

第四章 第三の精霊:その三

第四章 第三の精霊:その三

 スクルージは、自分の幻影を求めて、取引所のフロアや廊下の
辺りを見回わした。しかし、自分のいつもいた片隅には他の男性
が立っていた。そして、時計は自分がいつもそこに出かけている
時刻を指していた。けれども、出入り口から流れ込んで来る群衆
の中に、自分に似た幻影は見えなかった。とはいえ、それはそれ
ほど彼を驚かさなかった。なにしろ心の中に生活の激変を考えめ
ぐらしていたし、またその変化の中では、新たに生まれ変わった
自分の決心が実現されるものと考えてもいたし、望んでもいたか
らである。

 静かに黒く、精霊はその手で何かを指し示したまま、スクルー
ジのそばに立っていた。
 スクルージが考え込んでいて、ふと我に返った時、精霊の手の
方向と自分に対するその位置から思い描いて、精霊の見えざる目
は、鋭く自分を見つめているなと思った。そう思うと、彼はゾッ
と身震いをして、ゾクゾクと寒気がしてきた。

 精霊とスクルージは、その寒々とした取引所を去り、街のよく
分からない場所の中に入って行った。
 スクルージもかねてからこの街の周辺や、またこの辺りのよく
ない噂も聞いてはいたが、今までまだ一度も足を踏み入れたこと
はなかった。
 そこにある横道は不潔で狭かった。
 商店も住宅もみすぼらしいものだった。
 人々は、ほとんど古着を着込んでいて、酔っ払い、だらしなく、
見苦しかった。
 路地やアーチの通路からは、まるで下水道のように、彼らから
にじみ出る、非常に多くの不正な臭い、ほこり、そして、みじめ
な人生を吐き出していた。また、その地域全体が犯罪と共に汚物
や不幸の悪臭を放っていた。
 この悪名高い巣の中に、軒の低い突き出した店があった。
 屋根の下に閉じ込められたような建物で、そこは鉄や古いボロ
服やビン、骨、そして、油で汚れたゴミまで買う古物商の店だっ
た。
 内部の床の上には、さびた鍵、釘、鎖、ちょうつがい、とじ金、
秤皿、分銅、そして、あらゆる種類のくず鉄が積み重ねられてい
た。
 ほとんど洗われていない汚れの目立つボロ服の山や腐った油脂
の塊りが骨の墓場の中に埋もれて隠されていた。
 古いレンガで造った木炭ストーブのそばで、男性が商品に囲ま
れた中に座って商売をしていた。
 七十歳ぐらいの白髪まじりの人相の悪い老人だった。彼は、外
から吹き込む風を防ぐのに薄汚いボロボロの幕をロープの上にか
けていた。そして、すべてが満たされた中で、静かに余生を送っ
ていた彼は、パイプでタバコを吸った。

 精霊とスクルージが、この老人の前に来ると、ちょうどその時、
一人の女性が大きな包みを持って店の中へいそいそと入り込んで
来た。それから、その女性がまだ入ったか入りきらないうちに、
もう一人の女性が、同じように包みを抱えて入って来た。そして、
この女性のすぐ後から、ヨレヨレの黒い服を着た一人の男性が続
いて入った。
 二人の女性は、お互いの顔を見合せて驚いていたが、この男性
は、二人を見て同じように驚いた。
 短い間の驚きがあった後、三人は笑いころげた。すると、パイ
プをくわえた老人も彼らに加わって笑いだした。

「最初は、家政婦が一人でいいだろうに!」と、最初に入って来
た女性は叫んだ。
「二番目は洗濯女が一人で、三番目は葬儀屋が一人でいいだろう
に、よりによってオールドジョーのここでそろうかね。もし私達
が三人会わなかったら、その意味は分からなかったろうに」

「あんたらはこんないい場所じゃなきゃ出会えないよ」と、オー
ルドジョーは口からパイプを離しながら言った。
「店に入りな。あんたらは、ずいぶん前からそれをまぬがれられ
なかったんだよ。あんたは知ってるんだろう。そして、そちらの
二人も見知らぬ人じゃないね。待った。俺が店のドアを閉めてや
るから。ああ、どうしてきしむんだ。ちょうつがいの中にサビた
金属の破片みたいなのが入ってりゃしないだろうに。本当に。そ
れに私の古い骨みたいな物も入ってないけどね。ははっ、ははは
はぁ! 類は友を呼ぶだ。俺達は釣り合いがとれてるよ。さぁ、
店に入った、入った」