2014年4月11日金曜日

第三章 第二の精霊:その十

第三章 第二の精霊:その十

 甥達は、ずっと音楽ばかりして、その夜を過ごしはしなかった。
しばらくすると、彼らは失敗すると罰のある遊びを始めた。

 こんな日には、子供にかえるのもよいことだからだ。そして、
こうした遊びを考えた偉大な創作家こそ子供なのだ。だから、ク
リスマスの日が一番ふさわしい。さあ、楽しもう。

 まず第一には目隠し遊びがあった。もちろん、その場所で楽し
んだのだ。

 私には、目隠ししたトッパーが、彼のブーツが目を持っている
わけではないのと同じようにまったく目を見えなくしているとは
思えなかった。
 私が思うに、トッパーとスクルージの甥との間には、何か企み
があるらしい。そして、現在のクリスマスの精霊もそれを知って
いるようである。

 トッパーが、レースのショールをかけた豊満な妹だけを追い回
わした様子というのは、誰も知らないことをいいことに、やりた
いほうだいだった。薪やスコップに突き当たったり、イスをひっ
くりかえしたり、ピアノにぶつかったり、窓のカーテンに包まれ
て自分では呼吸が出来なくなったりして、彼女の逃げる方へはど
こへでもついて行った。
 トッパーは、常にその豊満な妹がどこにいるかを知っていた。
そして、彼は他の者は一人もつかまえようとしなかったのだ。

 もし、皆さんがわざと彼に突き当りでもしたら(彼らの中には
実際やった者もいた)、彼も一旦は皆さんをつかまえようとがん
ばっているようなそぶりをしてみせただろうが、それは皆さんの
反感をかうだろう。トッパーは、すぐにまたその豊満な妹の方へ
つられて行ってしまうのだ。

 豊満な妹は、気づいてそれは公平でないと何度も怒鳴った。そ
のとおり、それは公平でなかった。しかし、とうとうトッパーは
彼女をつかまえた。そして、彼女が絹の服をサラサラと鳴らした
り、彼をやり過ごそうとバタバタともがいたりしたにもかかわら
ず、彼は逃げ場のない片隅へ彼女を追いこんでしまった。
 それから後のトッパーのおこないというものはまったくひどい
ものだった。というのは、彼が自分が相手は誰だかが分からない
というようなフリをまだしていて、豊満な妹の髪飾りに触ってみ
なければ分らない、いや、そればかりでなく、彼女の指にはめた
指輪や首の周りにつけたネックレスなどを触ってみて、やっと彼
女であることを確かめる必要があるとでもいうように、彼女に触
りまくったのは、ちょっとやり過ぎだった。他の者が代わって鬼
をする頃には、二人ともカーテンに隠れてすごく親密にヒソヒソ
と話しをしていたが、彼女はそのことに対する自分の気持ちをう
ちあけたにちがいない。

 甥の妻は、この目隠し遊びの仲間には入らないで、居心地のよ
い片隅に、大きなイスと足を載せる台とで楽々と休息していた。
その片隅では精霊とスクルージとが彼女の後ろの近くに立ってい
た。しかし、彼女は失敗すると罰のある遊びには加わった。そし
て、アルファベット二十六文字のすべてを使って自分の愛の文章
を見事に組み立てた。
 同じようにまた『どんなに、いつ、どこで』の遊びでも甥の妻
は偉大な力を見せた。そして、彼女の姉妹達もトッパーに言わせ
れば、すいぶん敏しょうな女性達にはちがいないが、その敏しょ
うな女性達を彼女は散々に負かしてのけた。それをまたスクルー
ジの甥は心から喜んで見ていた。
 若い者や老いた者を合せて二十人くらいはそこにいたろうが、
彼らは全員でそれを楽しんだ。そして、スクルージもまたそれを
楽しんだ。というのは、彼も今(自分の前に)おこなわれている
ことに興味をひかれて、自分の声が彼らに聞こえないのをすっか
り忘れて、時々大きな声で自分の考えた答えを口にした。そして、
何度も正解したのだ。
 スクルージは、歳のせいか、頭が鈍ってきたと思っていたが、
この時ばかりは、針穴がダメにならないと保険つきのホワイトチャ
ペル製の最も鋭い針よりも彼の頭はさえて鋭かった。

 スクルージが子供のようにはしゃいでいるのが、精霊にはとて
も気にいったらしい。それに、彼は、港に戻った船から甥の親友
達が降りるまで、ここにいさせてもらいたいと子供のようにせが
みだしたことにも、精霊は愉快な様子で彼を見つめていた。しか
し、そんなに長い時間とどまるわけにはいかなかった。

「それはだめだ」と、精霊は言った。

「今度は新しいゲームでございます」と、スクルージは言った。
「三十分。精霊様、たった三十分!」

 それは「イエス・アンド・ノー」というゲームだった。
 そのゲームでは、スクルージの甥が何か考える役になって、他
の人達は、甥が彼らの質問に、それぞれその場合に応じて、「イ
エス」とか、「ノー」とか答えるだけで、それが何であるかを言
い当てるというものだ。
 活発な火のような質問に、甥はどちらかを答えてみせた。それ
で皆は、彼が一匹の動物について考えていることを引き出した。
それは生きている動物だった。どちらかといえば嫌な動物で、ど
う猛な動物だった。時々はうなったりのどを鳴らしたりする。ま
た時には話しもする。ロンドンに住んでいて、街も歩くが、見世
物にはされていない。また誰かが連れて歩いているわけでもない。
動物園の中に住んでいるのでもないのだ。そして、市場で食材に
されるようなことは決してない。馬でもロバでも牝牛でも牡牛で
も虎でも犬でも豚でも猫でも熊でもないのだ。
 他の者から新らしい質問がされるたびに、この甥はわはははっ
と大笑いしてくずれた。ソファから立ち上って床をドンドン踏み
鳴らさずにはいられないほど、なんともいいようがないほど、く
すぐられて面白がった。しかし、とうとうあの豊満な妹が同じよ
うに笑いくずれながら叫んだ。
「私、分かりましたわ! 何かもう知っていますよ、フレッド!
皆さんもご存知のお方よ」

「じゃ、何だね?」と、甥は聞いた。

「貴方の伯父さんのね、スクルージさん!」と、豊満な妹は応え
た。

 確かにそのとおりだった。
 なるほどそうだと歓声があがった。でも、中には「荒々しいか?」
と、質問した時には「イエス」と答えるべきだった。それを「ノー」
と否定の答えをされては、せっかくスクルージさんへ気が向きか
けていたとしても、スクルージさんから他の方へ考えを変えてし
まうのに十分だったからねと抗議した者もいた。

「あの人はずいぶん僕たちを愉快にしてくれましたね。本当に」
と、甥は言った。
「これであの人の健康を祝ってあげないのはよくないよ。ちょう
ど今、私達の手もとに一杯の暖かいワインがあるからね。さあ、
始めるよ。スクルージ伯父さんへ!」

「同じく! スクルージ伯父さんへ!」と、彼らは叫んだ。

「あの老人がどんな人であろうが、あの人にもクリスマスおめで
とう! 新年おめでとう!」と、スクルージの甥は声を上げた。
「あの人は僕からこれを受けようとはしないだろうが、それでも
まあ差し上げましょう。スクルージ伯父さんへ!」

 その伯父のスクルージは、誰に知られることもなく、気も心も
ウキウキと軽くなった。そこで、もし精霊が時間を与えてくれさ
えしたら、今のお返しとして、自分に気のつかない彼らのために
乾杯して、誰にも聞こえない言葉で彼らに感謝したことだろう。
しかし、その全場面は、彼の甥が口にした最後の一言がまだ終わ
らないうちにかき消されてしまった。そして、スクルージと精霊
とは、また飛び立った。