2014年4月11日金曜日

第四章 第三の精霊:その四

第四章 第三の精霊:その四

 店というのは、ボロ服のカーテンの後ろにある空間だった。
 オールドジョーは、古い金棒でストーブの火をかき集めた。そ
して、彼は煙臭いランプを手入れした。(夜だったためだ)それ
から、彼はパイプの吸い口を再びくわえた。
 オールドジョーがこんなことをしている間に、すでに三人で話
をつけた家政婦は、床の上に彼女の包を投げた。そして、これ見
よがしの態度をしながら丸イスの上に座った。彼女は、両腕をひ
ざの上で組み合せて、他の二人に大胆な挑戦をするようにみえた。

「それがなにさ。なにさねぇ、ディルバーの奥さん」と、洗濯手
伝いの女性が言った。
「皆も自分自身はまともな世話をしたからもらったんだと。奴は
いつもそうしてたさ」

「そりゃそうだとも、本当に!」と、葬儀屋の男性は言った。
「奴ほどじゃないよ。なぜ今さっき、あんたは恐れたように、こ
ちらの奥さんを見つめながら座ったんだね。誰よりも賢いのかい?
俺達はお互いの身元まであら捜しはしちゃいられないよ。そうじゃ
ないかい?」

「そう、本当だよ」と、洗濯手伝いの女性が言った。

「もちろんそんなつもりはないとも」と、ディルバー夫人は応え
た。

「そりゃ、たいへん結構なこった!」と、洗濯手伝いの女性は叫
んだ。
「あれで十分だよ。誰があんな人のために、あそこまでする者が
いるんだい? あの人の商売のやり方はもと悪かったよ。私らは、
あの人のやり方をほんの少し真似ただけじゃないかい。こんな少
しの物じゃ大損だけどね。死んだ人、そうじゃないかい?」

「まったくそうだよ」と、ディルバー夫人は笑いながら言った。

「悪い年寄りのひねくれ者が・・・。もしあの人が死んだ後も私
らの得物をそのままにしてほしかったんなら・・・」と、洗濯手
伝いの女性は続けた。
「なぜ生きている時に、当たり前のことをしていなかったんだい?
もしあの人が死んだとしても、こんな仕打ちは受けずに誰かに世
話をされていただろうに。それどころか、あの人の最後が自分一
人で外に横たわって息をひきとるなんて・・・」

「まったく、そりゃ本当の話だよ」と、ディルバー夫人は言った。
「あの人に罰が当ったんだねえ」

「もう少し重い罰にしてほしかったね」と、洗濯手伝いの女性は
言った。
「そうさ、そうするべきだよ。オールドジョー、それを頼むよ。
もしそうなら私は他にも、何か手に入れることができただろうに。
さあ、包みを開けなよ、オールドジョー。それで、それはいくら
になるかね。はっきり言ってよ。私が最初だからね。どおってこ
とはないよ、皆に見られても・・・。どおってことはないんだ。
私らがここで会う前に、私らは私らなりに助けてたことは知って
るんだからね。私はそう思うね。それは罪じゃないよ。包みを開
けな、ジョー」

 ディルバー夫人と葬儀屋の男性は、洗濯手伝いの女性の割り込
みを認めなかった。それで、葬儀屋の男性が今度は割り込んで略
奪品を並べた。それは大量ではなかった。
 印鑑が一つ、二つ、ペンケースが一個、カフスボタンが一組、
それに、安物のブローチと、これだけだった。それらは、オール
ドジョーによって別々に検査され、そして評価された。
 オールドジョーは、チョークで壁にそれぞれの値段を決めて書
いていった。そして、もう何もないと分かれば、すべてを加えて
合計を提示した。

「これがお前さんの分だよ」と、オールドジョーは言った。
「俺は、それ以上たったの六ペンスでもやれないよ。もしそれが
不満で、俺を煮ると言われてもやれないね。お次は誰だい?」

 ディルバー夫人がその次だった。
 シーツとタオル、少し着古した衣服、旧式の銀のティースプー
ンが二本、シュガートングが一対、それにブーツが少しあった。
 ディルバー夫人の買い取り値段も同じように壁に書かれていっ
た。

「俺は女性にはいつも余計に出し過ぎてね。これが俺の悪い癖さ。
またそのために、損ばかりしているのさ」と、オールドジョーは
言った。
「これがお前さんの買い取り値だよ。もしお前さんが、他の値段
がいくらかと聞いたら、そりゃ自由だが、俺は後悔するだろうね。
そして、半クラウンは買い叩くよ」

「さあ、今度こそ私の包みをほどきな、オールドジョー」と、洗
濯手伝いの女性が言った。

 オールドジョーは、その包みを開きやすいように両膝をついて、
いくつもの結び目をほどいて、大きな重そうな巻き物になった、
なんだか黒っぽい布きれを引きずり出した。

「こりゃ、なんだね?」と、オールドジョーは聞いた。
「ベッドのカーテンかい?」

「あはっ!」と、洗濯手伝いの女性は一声あげた。そして笑い、
彼女は腕を組んで前かがみになった。
「そうさ、ベッドのカーテンだよ」

「お前さんは、まさかその人をベッドに寝かせたまま、リングご
と全部、これを引き外して来たと言うつもりじゃないだろうね?」
と、オールドジョーは聞いた。

「そうだよ、そのとおりだよ」と、洗濯手伝いの女性は応えた。
「いけないかい?」

「お前さんは、ねっからの商売上手だね。ひと財産出来るよ」と、
オールドジョーはあきれて言った。
「そう、お前さんは確実にそうなるだろうよ」

「そんなの、私はこの手に出来はしないよ。確実にね。こんなこ
とぐらいで、いつ、どうやってそれにたどりつけるんだい? そ
のためにはあの人だよ。奴のようにしなきゃね。私はあんたほど
でもないよ、オールドジョー」と、冷静に洗濯手伝いの女性は言
い返した。
「そのロウソクのロウを毛布の上へたらさないようにしておくれ
よ」

「あの人の毛布かね?」と、オールドジョーは聞いた。

「あの人のでなけりゃ、誰のだというんだよ?」と、洗濯手伝い
の女性は言った。
「あの人は毛布がなくたって風邪をひきもしないだろうよ。本当
の話がさ」

「まさか、伝染病で死んだんじゃあるまいね、ええ?」と、オー
ルドジョーは仕事の手をとめて、洗濯手伝いの女性を見上げなが
ら言った。

「そんなことはビクビクしなくてもいいよ」と、洗濯手伝いの女
性は言い返した。
「そんなことでもありゃ、いくら私だってこんな物のために、い
つまでもあの人の周りをうろついているほど、あの人のお相手が
好きじゃないんだからね。ああ! そのシャツが見たけりゃ、お
前さんの目が痛くなるまでよーくごらんよ。だけど、いくら見て
も、穴一つ見つけるわけにはいかないだろうよ。すり切れ一つだっ
てさ。これがあの人の持っていた一番良いシャツだからね。本当
に実際いい物だよ。私がこれを手に入れなかったら、他の奴らは
むざむざと捨ててしまうところなんだよ」

「捨てるって、どういうことなんだい?」と、オールドジョーは
聞いた。

「あの人に着せたまま、一緒に埋めてやるのにきまってらあね」
と、洗濯手伝いの女性は笑いながら応えた。
「誰か知らんが、そんな真似をするバカがいたのさ。でも、私が
それを脱がして持って来ちまったんだよ。どうせ埋めるんならキャ
ラコで十分だろ。そのシャツは、あの人には不似合いだよ。あん
な体と一緒にするにはね。もうあの人が誰かに会うことはないん
だし、キャラコよりもあの人のしたことは見苦しいんだからね」

 スクルージは、恐怖しながらこの会話を聞いていた。
 四人は座り、彼らが集めた略奪品に、オールドジョーのランプ
がとぼしい光をさしていた。
 スクルージは、彼らに憎悪と嫌気をおぼえた。
 スクルージと彼らのおこなっている「商売」の悪どさは、どち
らがより大きいかは、ほとんど分からなかった。けれども、自分
は法律の範囲内で商売をしているが、彼らは、それを超えた悪魔
だ。まさに、死体そのものを市場で売買したようなものだ。

「ははっ、ははははっ!」と、洗濯手伝いの女性が笑った。

 その時、オールドジョーがお金の入ったフランネル製のカバン
を床の上に出し、彼らの利益がいくらか伝えた。
「これでおしまい。それでいいね。奴が生きていた時、誰もを怖
がらせて、奴は自ら我々が離れていくようなことをした。だから、
奴が死んだ今、これらの品物まで奴から離れていき、私達に利益
が入ったということだ。ははっ、はははっ、はははははっ!」

「精霊様!」と、スクルージは頭から足の爪先までブルブルと震
えながら言った。
「分りました。分りました。この不幸な人間達のように私もなる
かもしれませんね。今までの私の生活もそちらの方へ向いており
ます。慈悲ぶかい精霊様、これは何でしょうか?」

 スクルージは恐怖して後ずさりした。それは、光景が変わって
いたからだ。そして今、彼はベッドにほとんど触れていた。
 ベッドの周りを覆うカーテンがなく露出していた。そしてそこ
には、ボロボロのシートの下に何かが包んであり、無造作に置か
れていた。また、その何かは無言だったけれど、それ自身が恐ろ
しさを物語っていた。