2014年4月12日土曜日

第四章 第三の精霊:その六

第四章 第三の精霊:その六

 その母親は誰かを待っているようだった。それも心配そうに待
ち望んでいた。それというのも、彼女が部屋の中をしきりに往っ
たり来たりして、何か物音がするたびに驚いて飛び上がったり、
窓から外を眺めたり、柱時計を眺めたり、時には裁縫をしようと
しても手につかなかったり、遊んでいる子供達の騒ぎ声を平気で
聞いていられないほど、そわそわしていたからだ。

 長い間、待ち望んでいた、ドアをノックする音が聞こえた。
 母親は、急いで出入り口に行き、彼女の夫を迎えた。

 彼はまだ若かったが、誰か別人のように顔が心配でやつれ、そ
して落胆していた。今、その中に注目すべき表情が現われた。ま
じめそうでもうれしさがあった。しかし、それを彼は恥ずかしい
と感じた。そして、それを彼は抑えようと努力していた。
 彼はゆっくりとイスに座った。
 彼のために用意された夕食は暖炉の火にかけられていた。
 その間に彼女は彼に、なにかニュースがあるか、おずおずと聞
いた。(それも長い間、沈黙していた後で)
 彼はどう応えようかと戸惑っているように見えた。

「良かったのですか?」と、彼女は聞いた。
「それとも、悪いのですか?」と、彼をなぐさめるように聞いた。

「悪いんだ」と、彼は応えた。

「私達はすべて失うんですね」と、彼女は落胆した。

「いや、まだ望みはあるんだ、キャロライン」と、彼は明るく言っ
た。

「もしあの人が優しくなれば・・・」と、彼女は彼をビックリさ
せようと言ってみた。
「まあ、すべて希望にすぎませんけど。もしそんな奇跡が起こっ
たら」

「あの人は優しくなりすぎた」と、彼は言った。
「あの人は死んだよ」

 彼女の顔が真実を物語っていた。
 彼女は温和、そして忍耐強い人だった。しかし、彼女はそれを
聞いて、心の中で感謝していた。そして、彼女はそう言った。そ
れと同時に神に感謝した。
 次の瞬間、彼女は神に許しを請った。そして謝った。しかし、
最初の彼女が本心なのだ。

「昨日の夜、私が、酒に酔っていた女のことについて、お前に言っ
たね。彼女が私に言ったあの人のこと。いつだったか、私があの
人に借金のことで会おうとしていて、そして、一週間だけ支払い
の延期をもらおうと。それなのに、あの人は病気を口実に会って
はくれなかった。私が思ったのは、私を避ける単なる言い訳だっ
たと。それが、あの酔った女が言っていたことが本当だというこ
とが分かったんだ。あの人はひどい病気だけじゃなかったんだ。
いや、あの時は死にかけていたんだよ」と、彼は言った。

「私達の借用書は誰に移されるんでしょう?」と、彼女は不安そ
うに言った。

「私には分からないよ。でも時間はまだある。私達はお金の用意
ができているさ。そして、たとえ私達がだめだったとしても、彼
の後継者の中にひどく冷酷な債権者が現れたら、それは本当に悪
運だろう。とりあえず心配のなくなった夜だ。私達は眠るとしよ
う、キャロライン」と、彼は微笑んで言った。

「はい」と、彼女も微笑んだ。

 それは彼らを和らげるだろう。
 彼らの心は晴れやかだった。
 子供達は、静かな顔をしていた。そして、周りに集まって父親
の話を聞いた。すると、彼らはとても少しだが理解して、明るく
なった。そしてそれは、あの人の死により幸福になった家庭だっ
た。

 精霊が、スクルージに示すことができた唯一の感情は、この出
来事によって起こった満足感だけだった。

「精霊様! 私はもう死んだのですね」と、スクルージは言った。
「この二人には、私が金を貸している。あの死体は私の身代わり
ではなく、私自身だったんだ! 私は前の精霊様に教えていただ
いた教訓を活かせなかったのですね。そして、あの暗い部屋で、
私はみじめな死に方をし、私の死は多くの人達を喜ばせていると、
そう言いたいのですね。分かりました。誰だって一度は死ぬんで
す。だけど、精霊様。私は、そんなに罪深い人生だったのでしょ
うか? お金に困っている人にお金を貸すのが、そんなにひどい
ことなのでしょうか? 少なくとも今まで見てきた人達よりも多
くの税金を納め、社会に貢献しています。一度だって罪を犯した
ことはない。それに、私は政治家じゃない。私一人で、すべて面
倒をみろというのでしょうか? もし、そんな手本になるような、
いい人生を送った人がいるのなら、それを私に見せてください」

 精霊は、その言葉に同意したかのように、スクルージがいつも
歩きなれた街並みを通りぬけて、彼を案内して行った。
 歩いていく間に、スクルージは、まだあきらめきれず、自分の
幻影を見つけようとあちらこちらを見回わした。けれどもやはり、
どこにもそれは見つからなかった。
 精霊は、スクルージが前に訪問したことのある、貧しいボブ・
クラチェットの家に入った。すると、母親と子供達は、暖炉の周
りに集まって座っていた。