2014年4月13日日曜日

目次


第一章 マーレーの亡霊
   その一  その二  その三  その四  その五  その六
   その七  その八  その九

第二章 第一の精霊
   その一  その二  その三  その四  その五  その六
   その七

第三章 第二の精霊
   その一  その二  その三  その四  その五  その六
   その七  その八  その九  その十  その十一

第四章 第三の精霊
   その一  その二  その三  その四  その五  その六
   その七  その八  その九

第五章 この出来事の終わり
   その一  その二  その三  その四  その五  その六

2014年4月12日土曜日

第五章 この出来事の終わり:その六

第五章 この出来事の終わり:その六

 スクルージは、貧困をなくすために、率先して指導し、人々の
不満の中に新しい仕事の種があることを、手本を見せて気づかせ
た。すると、さびれた街に活気がよみがえった。それは、多くの
人達に知られるようになった。やがて、隣のさびれた街にも活気
が戻り、停滞した町が生き返り、過去の歴史の中で、最もすばら
しい自治市として発展していった。

 人々の一部には、スクルージが豹変したのを見て笑う者がいた。
しかし、彼は、そうした人達を笑わせておいた。今までの彼の行
動を知っている者には無理もないことだ。そんなにすぐに信用さ
れないことを彼は十分に承知していた。彼らは、彼がどんな体験
をしてきたか、なにも知らないのだから。

 次にスクルージは、世の中が、お金に振り回される悪循環をな
くすために、誰も所持できず、必要な時にだけ使える新たな通貨
の提案をした。しかし、始めは人々の中に参加しない者がいたり、
その突拍子もない提案をバカにして笑う者もいた。

 新たな通貨を受け入れた人々の中にも、他の通貨と交換しよう
としたり、どうにかして利益を得ようとする者がいて、なかなか
その良さを理解されなかった。

 スクルージは、試行錯誤を繰り返し、辛抱強く新たな通貨の啓
発に努めた。これには、ボブが力を発揮した。貧乏な暮らしをよ
く知っているボブは、人々の目線で説明した。そして、同じよう
に、人々にも知恵を出してもらった。

 やがて新たな通貨は、貧困をなくし、誰もが対等の立場になれ
ることが理解されるようになった。しかし、政府にとっては、今
までの通貨が無価値となることで、社会に混乱をもたらすと警戒
されるので、政府に妨害されないように、まずはグループを作り、
そのグループだけで使える通貨とした。

 新たな通貨は、単位をティムとしたことで、ティム通貨と呼ば
れるようになり、ティムの話を知った人々は、グループに加わり、
ますますティム通貨を信頼するようになった。
 最初は利益が得られないボランティアのように考えていた生産
者や商売人も社員の報酬を今までの通貨で払う必要がなくなるの
で、余剰の作物や商品をティム通貨で取引きするようになった。
 ティム通貨を使うことで、貧しい人達の生活が安定し、今まで
の通貨を外貨と考えて、安く出来た商品を売って外貨を稼ぐこと
で、今までの通貨の流通はどんどん減っていった。すると、今ま
での通貨が目減りした資産家の中にもティム通貨を使うグループ
に加わる者が現れた。そして、通貨そのものには、なんの価値も
ないことに人々は気づき始めた。

 スクルージは、十分に手を尽くした。そのため、ティム通貨は
彼の手から離れて、人々に浸透していった。それで、彼の心は笑っ
ていた。

 ところで、スクルージは、精霊とはそれ以来、会うことはなかっ
た。しかし、以前の彼に戻ることはなく、感謝の気持ちを忘れず
に生活した。そうしたことは、その後も変わることはなかった。
そして、人々は、彼を見直して、評価は高まっていった。

 スクルージは、クリスマスを大いに祝い、その意義を広めていっ
た。もし、それを知れば、誰だって夢中になるだろう。

 未来は、スクルージが精霊と見たものとは大きく変化した。し
かし、一つだけ変わらないものがあった。それは、ティムが考え
ていた「困っている人に手を差しのべる」という、助け合いの精
神だ。もちろん、元気になったティムもその考えを変えることは
なかった。そして、ティムは率先して実行した。

 私達の社会も本当に変われるかもしれない。それは、私達のす
べてにかかっている!
 
 神は私達を祝福する。そのすべての人を!


 終わりに

 クリスマス・キャロルは、色々な対立や偏見から和解する物語
ではないだろうか?
 「金持ち」と「貧乏人」、「老人」と「若者」、「健常者」と
「身体障害者」、そして、宗教対立などが、この物語にはある。
 「差別」という言葉は、今では悪いイメージで使われているが、
差別しなければ、自分と相手との違いが分からない。
 人間は、見た目は同じでも、その生き方はまったく別の生き物
と考えたほうがいい。(これは人間の脳が未成熟で生まれること
から可能性のあることだ)
 それぞれが違う生き物なのだから、生き方が違って当たりまえ。
 それなのに、大多数が正しい生き方で、少数の生き方は認めな
い。あるいは劣っていると思うことが問題なのではないだろうか?
 例えば、目の不自由な人が行動しやすい環境を整備する。これ
は、大多数の健常者にとっては意味のないことかもしれない。で
も、突然、真っ暗闇になった時、安全な場所まで誘導して助けて
くれるのは目の不自由な人ではないだろうか?
 その時、どちらが優秀で、どちらが劣っているといえるのか?
 真っ暗闇で作業をしなければいけない時、目の不自由な人に仕
事をしてもらえば、あえて照明をつける必要なない。
 厄介なのは、少数の者も大多数に偏見と憎しみを持つことだ。
 人間は弱い。自分の生活が少しでも脅かされると思うと、すぐ
に他者を排除しようとする。それを代行するのが「政府」だ。
 政府は、人間の弱みにつけこんで、対立をあおり、あたかも厄
介な仕事を自分達がしてやるといった親切ごかしでさらに状態を
悪化させ、そのくせ税金という報酬を搾り取る。
 大多数の者も少数の者も、それで安心した生活が約束されると
思い込んでいる。
 ユダヤ人は一時期、政府のない「流浪の民」だった。この時期
には対立のしようがないし、一人一人が活動自由な状態だった。
もちろん、税金を自分達の政府に搾り取られることもない。(自
分の住んでいる国の政府には税金を払うが、嫌ならいつでもその
国を捨てることができる)ところが、イスラエルを建国すると、
すぐに対立が芽生え、中東戦争まで起きている。
 最初にあげた対立は、政府にとって思うつぼで、本当に対立し、
排除しなければいけない相手は誰なのか、よく考えることだ。
 私は、すべての政府がなくなった時、平和が実現すると確信し
ている。

第五章 この出来事の終わり:その五

第五章 この出来事の終わり:その五

 次の朝、スクルージは早くから自分の事務所にいた。そう、彼
は早くからそこにいたのだ。
 もし、スクルージがそこに最初に一人だとしたら、もしそうだ
とすれば、ボブ・クラチェットのほうが遅く来ることになるので、
ボブに強く言える!
 スクルージは、そうなればしめたものだと、ボブが遅刻するこ
とにも望みをかけた。だから、彼は早めに出社したのだ。そう、
彼はそうしたのだ。

 時計は九つの時の音を告げた。
 ボブは来ない。
 十五分が過ぎた。
 ボブはまだ来ない。彼は完全に十八分三十秒の遅刻をした。
 スクルージは、事務所の出入り口のドアを広く開けて部屋に戻
り、いつもの自分のイスに座った。彼は、牢獄のような小部屋に
ボブが入って行くのを待ち望んだ。

 ボブは帽子を脱いだ。彼は事務所の出入り口の開いたドアの前
だ。次に彼は毛糸のマフラーも同じようにはずした。そして、彼
は、なにごともなかったかのように、すぐに彼の丸いイスへ直行
した。それと同時に、ペンを握ると仕事をしていたかのように装っ
た。その彼のペンは、絶えず精力的だった。もしかしたら、九時
に追いついてくれるのではないかというように、彼は挑戦してい
るようだった。

「おはよう!」と、スクルージはうなった。彼のいつもの声で、
できるだけいつもの口調で、彼は平静を装うことができた。
「ボブ君。君はどういう理由で、今頃、ここへ来たのかね?」

「大変申し訳ありません」と、ボブは言った。
「私は遅刻いたしました」

「君もそれを認めるのか?」と、スクルージは繰り返した。
「そう、私もそう思うよ。時間は貴重だ、有効に使わないとな。
ボブ君、ちょっとここへ、来たまえ」

「こんなことは年に一度だけでございます」と、ボブは、まさし
く牢獄にいるような気持ちで弁解しながら、小部屋のドアを出た
ところで立ち止まった。
「こんなことは繰り返さないようにいたします。昨日、私は少し
気を抜きすぎました」

「ところでだ。あのな、ボブ君」と、スクルージは言った。
「私はこの程度の仕事では、報酬を見直さなければと考えている
んだよ。それだから・・・」
 スクルージはイスから立ち上がり、ボブに近づいて話を続けた。
そして、ボブのチョッキに人差し指をひどく突き立てたので、ボ
ブはよろめいて再び牢獄に後退した。
「それだから、私は君の報酬を上げることにした!」

 ボブは震えた。そして、すぐそばの物差しを手に持った。また、
彼はとっさに思いついた。この物差しでスクルージを打ち倒して
動けなくする。そして、人々を呼び、法廷で苦境にあるチョッキ
を助ける。

「メリークリスマス! ボブ君」と、スクルージは言った。真剣
に、間違いなく。そして、ボブの肩をポンと叩いた。
「メリークリスマス! ボブ君。君は私の親友だ。その君に私は
長年の間、失望を与えていた。だから、私は君の報酬を正当なも
のにしたいんだ。そして、君の苦労しているご家族を助けるため
に努力を惜しまないよ。それから、今日の午後すぐに、私達の仕
事を見直そうじゃないか。もう、私は君に辛い仕事を押しつけた
りはしない。これからは社会を善くするために貢献しようじゃな
いか」

「は、はぁ」と、ボブはまだ何が起きたのか理解できないといっ
た様子で、力のない声を出した。
「でも、どうして? 何があったんですか?」

「君が驚くのも無理はないな。今までの私のしていたことは、あ
まりにもひどすぎた」と、スクルージは言って、自分の過去を振
り返った。
「私は恐れていたんだ。私がユダヤ人だということで、皆から偏
見を持たれるのではないかと、いつもおびえていた。それで、金
持ちになれば、大きな力を手に入れ、身を守れると思った。たし
かに、お金は私の身を守ってくれたよ。しかし、そのおかげで、
最も大切なものを遠ざけてしまった。恋人や暖かい暮らしの中で
育まれる家族。それらが、どんなに大切な存在だったか、バカな
私には気づかなかった。私こそ、皆に偏見を持っていたんだ。貧
困に苦しんでいる人達を軽蔑し、社会のお荷物で、堕落した役立
たずだと思い込んでいた。ところが、君のところのティム君は、
自分の病弱で体の不自由なことを隠そうともせず、皆に理解して
もらおうと努力している。あえて弱い自分をさらけだし、周りの
人達の暖かい心を呼び起こそうとしている。こんなに大切で、か
けがえのない存在を死んでもかまわないと思っていた私は、なん
ておろかで、堕落した人間だったのか。ティム君を救おう。彼を
少しでも健康にしたい。そうさせてもらえないだろうか? ボブ
君」

「あ、ありがとうございます!」と、ボブは祈るように言った。
「ありがとうございます、スクルージさん。私は貴方に心から感
謝いたします」

「それだよ、ボブ君。私達はこれから、一人でも多くの人から、
その感謝の言葉を集めるんだ。お金を集めるよりも、もっと大事
な、最高の仕事だ。それに気づかせてくれたのは、ボブ君、君な
んだよ。君にはすばらしい能力がある。だからこそ、いつまでも
私のそばにいて欲しいと思っているんだよ。私こそ、君に心から
感謝するよ。君に許してもらえるように努力するよ」と、スクルー
ジは言って、ボブの手を握った。
「私は、君の手をこんなに凍えさせていたんだね。さあ、ボブ君、
火をおこそう。そして、石炭バケツをもう一つ買おう。私のとは
別に、君の前のストーブのもね。ここへは、これから大勢の人達
が凍えた体でやって来る。その人達を暖められるように、部屋全
体を春のように暖かくしようじゃないか」

 スクルージは、約束したことよりもよくした。彼はすべて実行
をした。もともと、彼には才能があり、それをお金集めから、社
会に貢献する仕事に集中させたので、すばらしい結果をもたらし
た。彼は、いたるところに気を配り、ささいなことにも気づかっ
た。そして、病弱なティムにも愛情を注いだ。
 驚いたことに、ティムは死ななかったのだ。
 スクルージは、ティムのもう一人の父親になった。彼は、ティ
ムのよい遊び相手になった。

第五章 この出来事の終わり:その四

第五章 この出来事の終わり:その四

 スクルージは教会へ行った。それから、通りの周囲を歩いた。
そこで、あちらこちらに急いでいる人々を見た。そこにいた子供
達に感心した。また、貧しい人々の相談にのった。
 ある家のキッチンの様子が目にとまった。そこで、窓まで近づ
いた。そうした、あらゆるものがスクルージの楽しみをもたらす
ことができることに気がついた。
 スクルージは、いまだかつて、どんなに歩いても気になるもの
はなく、驚きに満ちているとは夢にも思わなかった。いたる所の
なにもかもが、彼に、とても多くの幸福を与えることができた。
 午後になって、スクルージは向きを変え、彼の甥の家に向かっ
て進んだ。

 スクルージはしばらくの間、甥の家の前を通過した。やがて意
を決して、彼は勇気を出して、出入り口のドアをノックした。
 どうにかこうにか、スクルージは勢いをつけて、ノックをした。
「あの、ご主人は、ご在宅ですか?」と、スクルージは出て来た
家政婦に言った。

「ご主人様は、お出かけです。どちら様でしょうか?」と、家政
婦は礼儀正しく聞いた。

「ご主人は、私の甥なんです。もしや船上パーティでは?」と、
スクルージは聞き返した。

「これは失礼いたしました。そうです。ご主人様は、たった今、
港に向かわれました」と、家政婦はニコリと微笑みながら言った。

 スクルージは、家政婦に港の船の場所を聞くと、お礼とクリス
マスの挨拶をして、すぐに港に向かった。

 港は広く、停泊している船も多かったが、スクルージは現在の
クリスマスの精霊と乗船した船の記憶をたどりながら、一隻の豪
華客船を探し当てた。そして彼は、出港の準備をしていた船員に
声をかけた。
「あの、この船に、エベネーザー・フレッドさんは乗船されまし
たか?」と、スクルージは聞いた。

「もちろん。この船をチャーターした方だからね。貴方も招待さ
れたのですか? もうじき出港しますよ。さあ、乗船してくださ
い」と、船員は応えた。

「いや、そうじゃないんだ。その人は私の甥でね。ちょっと、こ
こへ呼んで来てもらえないだろうか? スクルージと言えば分か
るよ」と、スクルージは申し訳なさそうに言った。

 船員は、スクルージをジロジロと見て、了解すると、船に乗り
込んで行った。
 しばらくして、スクルージの甥が船員と一緒に現れた。

「伯父さん! どうしてここが? そんなことはどうでもいい。
さあ、一緒に行きましょう」と、甥は喜びを抑えきれない声で言っ
た。

 甥は、スクルージを先に乗船させると、船員に出港するように
小声で伝えた。

 広い船室では、すでに甥の大勢の親友達が談笑していた。そこ
に、スクルージが現れたものだから、一瞬にして緊張がはしり、
寒々とした雰囲気になった。
 スクルージのことを知っている者は、突き刺すような目で彼を
見た。中には彼に借金でもあるのか、おびえて目をそらす者もい
た。しかし、彼を知らない者は、噂で聞いていた人物とは別人の
ような彼の姿に戸惑っていた。
 一人だけ大喜びの甥は、スクルージを皆に紹介した。
 スクルージは、すべての人の冷たい視線をあえて受け入れ、す
べての人に目をやった。

「皆さん、こんにちは。少しだけ私にお時間をください」と、ス
クルージは頭を下げて話し始めた。
「皆さんはもうご存知かもしれませんが、私はこのフレッドに、
クリスマスはバカバカしいと言い、彼が地獄に落ちたのを見たい
と言いました」

 この話を聞いたことがなかった者の中から、驚きの声が上がっ
た。

「伯父さん、僕は全然、気にしてませんよ」と、甥はスクルージ
を弁護するように言った。

「そうです。本当に言ってしまったのです」と、スクルージは話
を続けた。
「その言葉を撤回しても、彼にどんなに心からの謝罪をしても、
過去を取り消すことはできません。しかし、皆さん。未来はまだ
白紙です。私は、残りわずかな人生をすべて彼への心からの謝罪
に使います。そして、私はたった今から仕事、いえ、お金を集め
るという無意味な遊びから引退いたします。皆さんのような若い
人達の行く道を邪魔しません。私の財産はすべて、社会のために
役立てます。フレッド、お前には財産を残してやれない。もっと
も、お前は最初から私の財産なんか当てにはしていなかったね。
お前は、私が援助しなくても必ず成功するよ。心配はいらない」

「はい、伯父さん! ありがとうございます」と、甥は言い、ス
クルージと握手を交わした。

「皆さん、私は心から言います。神よ、クリスマスを祝福したま
え。メリークリスマス! そして、新年おめでとう!」と、スク
ルージは叫んだ。

「奇跡だ!」と、甥の親友の一人、トッパーが叫んだ。
「クリスマスの日に奇跡が起こったんだ! 我々は奇跡を目撃し
てるんだ! すごいぞ!」

 どこからともなく拍手が起こり、喝采に包まれた。

「それでは皆さん、楽しい時間を邪魔しました。失礼いたします」
と、スクルージは言って、船室を出ようとした。それを、甥が引
き止めた。

「伯父さん、僕達と一緒にパーティをしましょう。僕の夢を叶え
てください。お願いです」と、甥は祈るように言った。

「しかし、私にはここにいる資格はないよ」と、スクルージは言っ
た。

「そんなことありませんわ」と、甥の妻が言った。
「伯父様がいてくださったら、最高のパーティになりますわ」

 また、どこからともなく拍手が起こった。そして、全員にそれ
は伝染した。

「あ、ありがとう」と、スクルージは甥の妻に言って、頭を下げ
た。
「本当にありがとう。その言葉だけで私は救われたよ。皆さんに
も、ありがとうございます」

「伯父さん、それに船はもう出港してるんですよ」と、甥は言っ
た。
「ですから、パーティが終わるまでは、港には戻れませんよ。申
し訳ありませんが、しばらくここにいてください」

「そりゃ、そうしてもらわないと」と、トッパーが言って笑った。

 全員に笑いが感染した。

「それじゃ、しかたないな」と、スクルージは言った。その甥の
気づかいに、彼は胸が熱くなって、言葉をつまらせた。
「皆さん・・・、ありがとうございます。今夜は私の人生で最高
のパーティになるでしょう」

 それは慈悲だ。
 スクルージの心は震えていた。
 すぐにスクルージは皆と打ち解けた。彼は現在のクリスマスの
精霊と一度、皆と会い、よく知っていたからだ。
 まったく誰もが元気にならずにはいられなかった。
 甥の妻もちょうどスクルージと同じようなまなざしだった。
 トッパーが紹介された時、彼もそうだった。
 甥の妻の姉妹達の一人、豊満な方の妹が紹介された時、彼女も
そうだった。
 誰でも紹介された時、彼らも同じまなざしをしていた。
 最高のパーティ。
 最高のゲーム。
 最高の一体感。
 最高の幸福!

第五章 この出来事の終わり:その三

第五章 この出来事の終わり:その三

 スクルージがヒゲを剃ることはやさしい仕事ではなかった。そ
れは、彼が笑い続けていたので、カミソリを持つ手がとても揺れ
ていたからだ。そして、剃ることは注意をようするものだ。大げ
さに言えば、踊らない時でさえ、慎重にすることだ。しかし、も
し彼が誤って、彼の鼻がつけねから離れたとしても、彼は一つの
バンソウコウを傷の上にはっただけでも、かなり満足したはずだ。

 スクルージは、自分のすべての洋服の中で、彼の最も気に入っ
た洋服を着た。そして、彼はついに外の通りへ出た。
 人々はこの時、以前に見たことのある行動をしていた。
 スクルージは、この人々を現在のクリスマスの精霊と一緒に見
ていたのだ。そこで、懐かしそうに歩きだした。彼は手を後ろに
していた。彼は、行き交う人達をだれかれとなく見つめ、うれし
そうに微笑んだ。その時の彼は、楽しさがおさえられないように
見えた。それは陽気な老紳士の姿だった。だから、三、四人の機
嫌のいい人達が声をかけた。
「おはようございます。あなたにもメリークリスマスを」 
 このことをスクルージは、後にしばしば言った。
「あれは私が以前に聞いた、すべての楽しげな声の中で、最も楽
しげに私の耳に感じた」

 スクルージは、それほど遠くまで歩いていない所で、前方から
来る、かっぷくのよい紳士に気がついた。その紳士は、前日に彼
の事務所にやって来て、寄付を求めたので追い返したその人だっ
た。
「こちらはスクルージ・エンド・マーレー商会でございますね?」
と、その紳士の言葉がよみがえった。
 その言葉がスクルージの心をよぎり、心苦しさを与えた。もし、
彼がその紳士に声をかけた時、どんな態度で、この紳士は彼を見
るだろう。しかし、彼はいい考えがあると、歩道で正直に申し出
ようと紳士の前で立ち止まり、そして、彼は自ら罰を受け入れた。

「もし、貴方」と、スクルージは言って、彼は紳士に歩み寄り、
そして、愛想よく紳士と握手した。
「こんにちは。昨日、私は貴方にお会いしたのですが、もうお忘
れでしょうか? あっ、そうだ。メリークリスマス!」

 かっぷくのよい紳士は、スクルージに寄付を断られ、追い返さ
れたことを忘れてはいなかった。しかし、その時の彼とはまるで
別人のような態度だったので、思い違いをしているのかと不安に
なった。
「メリークリスマス。スクルージさん?」と、紳士は聞き返した。

「はい」と、スクルージは応えた。
「それが私の名前です。そして、私はそれが貴方には不愉快かも
しれないと不安でなりません。貴方に許してほしいのです。たし
かにあの時、貴方達がおっしゃったように、多くの人々が貧困に
苦しみ政府の対応に不満を感じて、死にたいと思っていることを
私は知っていました。私はそれに目をそむけていたのです。どう
か私にも貴方達に協力をさせてください」

 そこでスクルージは、紳士の耳にささやいた。

「おお!」と、紳士は叫んだ。彼は呼吸が奪われたようだった。
「スクルージさん、貴方、本気ですか?」

「もし貴方に喜んでいただけるのでしたら」と、スクルージは言っ
た。

「ちっともかまいません。それはとても多くさかのぼってのご寄
付となります。本当ですよ。またどうして、貴方はそんなに親切
にされる気になったのでしょうか? ええ、貴方」と、紳士は言っ
て、スクルージと握手をした。
「私はなんと言ったらよいか。そのように惜しみなくご寄付して
くださるとは」

「なにもおっしゃらないでください」と、スクルージは言った。
「しかし、それだけでは一時しのぎにしかなりません。それを使
い切った後には、もっと辛い生活が貧困に苦しんでいる人達を襲
うでしょう。ですから、根本的な対策が必要です。貧困に苦しん
でいる人達は、貧困の不満、それ自体が仕事だということに気づ
いていないのです」

「それは、どういうことでしょうか?」と、紳士は聞いた。

「私の商売は、人々の不満を買い取り、それを良くするアイデア
を売っていたのです。不満を改善する商品やサービスを考えれば、
それが仕事になり商売になるのです。彼らはいつも商売の種を持っ
ているのですよ」と、スクルージは応えた。

「なるほど」と、紳士は納得した。

「それと」と、スクルージは言って、話を続けた。
「財産を持っている者と持たざる者は、同じなのです。例えば、
目の不自由な人がいますね。この明るい場所で私達から見れば、
それは不自由です。しかし、真っ暗闇ではどうですか? 私達は
何も見えず不自由になりますが、目の不自由な人にとってはいつ
もと同じです。このことと、財産を持っている者と持たざる者は、
同じなのです」

「私には、よく分かりませんが」と、紳士は首をかしげた。

「ようするに、財産を持っている者の通貨を使おうとするから、
持たざる者は貧乏ということになるのです」と、スクルージは説
明した。
「ですから、持たざる者だけが使える通貨を造るのです。ただし、
この通貨は他の通貨に交換することは出来ず、個人で所有するこ
とも出来ません。使う人全員の所有物として、必要な時だけ借り
て利用するのです。これには、生産者や商売人にも参加してもら
い、収入を元に戻してもらいます。そのかわり、資材や商品の仕
入れ、社員への報酬の支払いをする時にも、この通貨を利用して
いただければ、今までの通貨を稼ぐといった苦しみがなくなり、
通貨は留まることがなく、循環することになります」

「これは、皆の財布を一つにするということですか?」と、紳士
は聞いた。

「そうともいえますね。しかし、政府はこの通貨を本当の通貨と
は認めないでしょう。だから、物のやり取りをしても税金を取ら
れることはありません。本当の通貨の移動はないのですからね」
と、スクルージは言った。
「もっと詳しいことをお話しさせていただきたいのですが。近い
うちに私の事務所に会いに来てください。貴方は私に会いに来て
いただけますか?」

「もちろん!」と、紳士は言った。そして、それは確実で、彼は
それを実行するつもりだった。

「ありがとうございます」と、スクルージは言った。
「私は、貴方にすごく感謝いたします。私は、とても感謝いたし
ます。ありがとうございます!」

第五章 この出来事の終わり:その二

第五章 この出来事の終わり:その二

 スクルージは、急いで窓まで走って行き、一つの窓を開けた。
そして、彼は身をのり出した。
 外は、霧もなければ、かすみもない。澄んで、明るく、愉快で、
壮快な寒さが心地よかった。
 寒々とした風が笛を吹いて、生命が踊るようだ。
 金色の日光。
 天国のような空。
 清らかで新鮮な空気。
 陽気なベルの音。
 おお、すばらしい!
 すばらしいぞ!

「ちょっと君! 今日は何日だね?」と、スクルージは叫び、真
新しい服を着て、下を向いたまま歩いていた少年に呼びかけた。

 少年は、辺りを見回し、声のした方を探して、スクルージと目
が合った。

「ええ?」と、少年は聞き返した。彼は力いっぱい驚いていた。

「今日は何日だね? そう君だよ」と、スクルージは言った。

「今日?」と、少年は耳を疑った。
「何を言ってるんですか。今日はクリスマスの日じゃないですか」

「そうだ、クリスマスの日だ!」と、スクルージは自分自身に言
い聞かせた。
「私は間に合った。精霊様達はそのすべてを一夜でされたんだ。
精霊様達は好きなように何でもできるんだ。いや、神様がなされ
たのかもしれない。そうだ神様なら出来る。神様がそうなされた
んだ。おはよう。少年!」

「おはようございます!」と、少年はあいさつをした。

「ところで君は、鶏肉屋を知ってるかい? 次の通りをもう一つ、
その角の・・・」と、スクルージは聞いた。

「行ったことがあると思います」と、少年は応えた。

「賢い少年だな!」と、スクルージは言った。
「賢い少年よ! 君は、その店先に掛けられていた七面鳥が売れ
たかどうか知ってるかい? 小さい方の七面鳥じゃなくって、一
番大きい方の七面鳥だよ」

「ええ、一番、僕くらい大きいのですか?」と、少年は聞き返し
た。

「ほほほっ、面白い少年だ!」と、スクルージは言った。
「彼と話すと愉快だな。そうだよ、君」

「それなら、その店先に今でも掛かってますよ」と、少年は応え
た。

「まだあるのか?」と、スクルージは言った。
「君、それを買って来ておくれ」

「ご冗談でしょ!」と、少年は叫んだ。

「いや、いや」と、スクルージは言った。
「私は真面目だよ。その大きい七面鳥を買って来ておくれ。そし
て、店の人にそれをここえ持ってくるように言っておくれよ。私
は店の人に、どこへそれを持っていくか指示を与えるから、運ん
でくれる人を連れて戻っておいで。そしたら私は君に1シリング
あげるよ。五分以内にその人と戻っておいで。そしたら私は君に
もう半クラウンあげるよ」

 少年はすぐに去った。彼は震えない手で銃の引き金をひいたに
違いない。そうでなければ、誰があんなにすばらしい速さですぐ
に去ることができるだろう。

「私はそれをボブ・クラチェットへプレゼントしよう」と、スク
ルージはささやいた。彼は手をこすった。そして、おかしくてた
まらず笑った。
「彼はそれが誰からのプレゼントか知らないんだ。それは、あの
病弱なティムのサイズの二倍はある。ジョー・ミラーはこんな冗
談は絶対に創作しないね。ボブにそれをプレゼントしたらどうな
るだろう!」

 スクルージは、メモする紙を探して、それにボブの家の住所を
急いで書いた。だから、その文字は一つも落ち着いていなかった。
しかし、彼はなんとかそれを書き終わった。そして、階段を下り
て行き、出入り口のドアを開けて、鶏肉屋の人が来るのを待った。
彼はそこに立って、ウキウキして到着を待った。ドアのノッカー
が彼の目にとまった。

「私はこれを見るたびに思い出そう。そして、君の言葉を大事に
するよ。私が生きてる限り!」と、スクルージは叫んだ。彼は愛
情をこめた手で、やさしくノッカーをパタパタと鳴らした。
「私は前からこのノッカーをほとんど見ていなかった。なんて、
正直そうな表情をしたお顔だこと。なかなかすばらしいノッカー
だ。やあ、こっちだよ! 七面鳥をここに。おはよう! ほう!
どうだい調子は? メリークリスマス!」 

 それは、立派な七面鳥だった!
 この七面鳥はとてもじゃないが自分の脚では立つことができそ
うもない。もし立とうとすれば、その脚はポキンと折れるだろう。
それも、もろく瞬間にだ。シーリングワックスの棒のようにだ。

「おや、これは無理だ。カムデン・タウンに運べないな」と、ス
クルージは言った。
「あんた、荷馬車にしてくれよ」と、スクルージはクスクスと笑っ
て言った。そして、彼はクスクスと笑って、七面鳥の支払いをし、
荷馬車の支払いをし、少年に約束のお駄賃もあげた。ただ一人、
クスクスと笑いすぎてしまった。

 スクルージは、部屋に戻ると息をきらして彼のイスに座り、ふ
たたび、また彼は泣くまで、クスクスと笑った。

第五章 この出来事の終わり:その一

第五章 この出来事の終わり:その一

 そうだ!
 そのベットの支柱はスクルージの部屋の物だった。
 ベットもスクルージの物なら、部屋も彼自身のものだった。
 すべてが最もよく、そして最も幸福だった。
 スクルージは、以前の時間に戻った彼自身だった。そして、目
が覚めるもうろうとした中に、あの砂時計の黄金に輝く砂が、ま
だ少し残っている幻影を見た。

 改心することができる!

「私は過去のことを心に刻んで暮らします。現在、そして、未来
のことも!」と、スクルージはベットからはいだしながら、以前
の言葉を繰り返した。
「出会った精霊様すべてが、私の中で励ましてくれるだろう。お
お、ジェイコブ・マーレーよ! 君の、その重い鎖からすぐに楽
にしてあげるよ。安心しておくれ。そして、クリスマスの時間は、
必ず君のことを思い出すよ。そして、感謝の言葉を贈るよ。親愛
なるジェイコブよ。感謝します!」

 スクルージは、流れる血の暖かさを感じ、胸が躍るようで、そ
れが彼のよい意志を輝かせた。
 スクルージの衰弱した声で投げかけた言葉に返事はなかった。
しかし、彼が激しくすすり泣く中で、彼は精霊が身近にいること
を感じた。だから、彼の目から涙があふれた。 

「部屋のどこも、荒らされていないぞ!」と、スクルージは叫ん
だ。
 スクルージは、腕の中に彼のベッドのカーテンの一つを抱き寄
せた。
「どこも引きちぎられてない。リングもすべて、ここにある。私
もここにいる。あれは精霊様が見せてくださった、今までの私が
たどる幻影だったのだろう。やり直せるかもしれない。彼らに会
おう! 私は彼らに気づいたんだ!」

 スクルージの手は、着替えをしようとして慌しく、パジャマを
脱ぎ始め、裏返しに回したり、止めて上下にしたり、涙したり、
置き忘れたり、集めたりして、喜びを爆発させた。そして、あら
ゆる親切をとほうもなく考えた。

「私は、これから何をしたらいいか分からないよ!」と、スクルー
ジは叫んだ。そして、笑ったり、泣いたりを同時にした。

 混乱したスクルージは、靴下を使っておどけてみたりした。

「私は羽のように軽い。私は天使のように楽しい。私は学生のよ
うに陽気だ。ああ、目が回る。酒に酔った人みたいだ。皆さん、
クリスマスおめでとう! 新年おめでとう! 世界中の皆さん! 
新年おめでとう! おーい、戻ったぞ! ほーう! おはよう!」

 スクルージは、ベッドの上ではね回った。そして、今はそこに
立っていた。完全に息切れした。

「シチュー鍋がある。中にオートミールのシチューがあった!」
と、スクルージは叫んだ。それだけで元気が出て、また騒ぎ始め
た。そして、暖炉の周りをはね回った。
「ドアがある。あそこからジェイコブ・マーレーが入って来たん
だ。あの部屋には現在のクリスマスの精霊がいて、座っていたん
だ。窓もある。私はさまよっている友人達を見たんだ。それは確
かだ。それはすべて本当だ。それはすべて起こったんだ。ははっ、
はははっ、はははははっ!」

 本当に、スクルージの長い人生の中で、それは表現したことの
ない笑いだった。最高に愉快な笑いだ。彼のどの祖先よりも、人
生の長い道のりの中でも、特に輝く笑いだった。

「私には、今が何月の何日か分からない」と、スクルージは言っ
た。
「私はどれぐらい長く、精霊様が私に寄り添ってくださったのか
分からない。私には何も分からないよ。私はまるで生まれたばか
りだな。だが、少しも心配はない。私は心配しないぞ! 私はむ
しろ生まれ変わろう。おはよう! ほーう! おーい、戻ったぞ!」

 スクルージの喜びは突然、妨害された。彼が夢中になっていた
ところ、近くの教会で、すごく大きなとどろきが響き渡った。そ
れを彼は以前に聞いたことがある。

 ゴーン、カーン、とハンマー!
 ディン、ドン、とベル!
 ベルが、ドン、ディン!
 ハンマーが、カーン、ゴーン!
 おお、すばらしい!
 すばらしいぞ!